【ドイツ音大】先生との出会い その2

ドイツ音大・先生との出会い

こんにちは、妹です。一時帰国しています。いま雨が、滝のように降っています。おそらく気圧の変化のせいだと思いますが、朝から頭痛がします。雨のあまり降らないドイツに住んでいるとなかなか起きない現象です。でもここは日本。

湿めった空気が常に肌にまとわりついて、得体の知れない小さな虫(蚊?)に夜中に刺されたことに朝方になって気がつく、今日この頃です。

土深くもぐるミミズもこの雨にはさすがに気付いていると思います。じめじめ。そろそろ梅雨でしょうか。


その1の続き。

・・私は先生に、たどたどしいドイツ語で自己紹介をした。

私の名前、年齢、今弾いている曲など。

私はその時やっと16歳になったところで先生はそれを聞くと Ach, Du bist sehr jung.(なんて若いのかしら)とおっしゃった。そして、若いのにはるばるよく来たわねえ、と明るく笑ってくださりレッスンが始まった。

ところでドイツ語では英語のYouに当たるものがDu Sie2パターンある。

どう考えてもまだ子どもだ、みたいな相手には初対面でもDuを使うことが認められている気がする。

例えば大学の授業では、学生同士ではDuでも先生方が私たちに使うのは大抵の場合Sie. 何故なら私たちはもう大人とみなされているからだ。

だけど、この時レッスンで先生は完全なる初対面の私に初めからDuを使った。

Weisst du…? (・・は知ってる?)

Wie findest du, es kommt ein crescendo oder diminuendo ?

これからクレッシェンドが来るか、ディミヌエンドが来るか、あなたはどう思う?)

などなど。

それが何となく先生からの最初の親しみを込めた心遣いのように感じられて、緊張しながらも嬉しくなった。

多分、最初に一楽章をカデンツァ(コンチェルトの中にある、ソロパート。技術的に難しい箇所であることが多い抜きで通したんだと思う。そのあとの先生の第一声を聞くのが怖かった。(いつものことだけど)

恐ろしい2秒くらいの沈黙の後に、Das war schön! Deine Musikalität finde ich sehr toll. Lassen wir uns mal von vorne anfangen. (すごく良かったわ。音楽的にも上手くできていた。それじゃ、最初から一緒にやっていこうか)とおっしゃった。

多分そんな風にしてレッスンが始まったはず。それからの90分間、私の両耳は今までの自分の人生で恐らく一番くらいに開かれていて、できることならもっとダンボみたいに大きな耳があったら先生のおっしゃっていることがより理解できたかもしれないのに、とそれが少し悔やまれた。私の全神経は耳に集中していた気がする。

レッスン中、先生がなんておっしゃっているのか完璧には分からなかったけど、拍の重点が置かれるべきでないところに置かれているとか、ここの箇所は本来大きくなるべきなのに小さく終わってしまっている、とかいう細かいところまで指摘されている、ということには何とか気がつけた。

さらに先生はピアノ伴奏までご自身で弾いてくださって、楽譜上の和声進行を読み取るのがいかに重要か、とおっしゃった。

(そういう和声の流れを把握するにはピアノ譜を読んで、もしくは実際にピアノを弾いて分析していくのが手っ取り早い。ヴァイオリンはメロディー楽器だから、しばしば和声進行を無視して弾けてしまうのである。

ヴァイオリンが専科の人でも副科ピアノが必修なのはこういうわけだ。)

そうこうしているうちに1時間半ほどのレッスンは終わった。

必死に頭をフル回転させていたために、レッスンが終わる頃には私はかなりぐったりしていた。

それでも初めて受ける先生のレッスンに半ば興奮が収まらずに楽器をケースに閉まっていると、先生は見学していた門下生らしき一人に声をかけた。

(実は途中からいきなり現れたこの彼のために、私はますます緊張せざるを得なかった。)

その彼に、先生は「彼女(私のこと)どう思う?これから一緒にやっていくとしたらと聞いた。なんてドキドキする質問!!

そしたら彼は、「もちろん!素晴らしいことだと思います」 と答えた。

先生は私にも今後どうしたいか、と尋ねてくださり、私はぜひ先生のもとで勉強したいと答えた。

実はその日まで、自分がドイツの音大に進むなんてほとんど考えていなかったのだけれど、先生のレッスンを受けた後にはすっかり、ドイツで勉強したいという気持ちになっていた。

このとき私たちは日本にすぐに帰らなければならず、それ以上先生のレッスンを受けることは出来なかったのだけれど、それを残念がった先生は、また会いましょう、ぜひ夏にまたいらっしゃい、とおっしゃって別れ際にぎゅっとハグしてくださった。